整備士が知らない…かもしれない整備工場の苦情相談担当者の『ひ・と・り・ご・と』

整備士が整備工場で勉強しようと思っても出来ない整備に関わるユーザーからの苦情、整備工場からの相談を綴ります。法律的なところは専門家ではないので鵜呑みにせず参考程度に。古い話で記憶もあやふやですが自分の笑える失敗話や整備の話もほんの少し。依頼があれば事例内容を紹介する講習会もやります。実例を知ってトラブルを防止しましょう。

日本茶 ⑮ 横車の押し方

 

 登録から10年以上が経過した中古車を購入したユーザー。

    購入時の走行距離は3万5千km(見ていないがユーザーがいう距離)だったそうだが、現在は購入してから3年超が経ち、総走行距離はそれでも5万km。

(ユーザーが走行したというのが15000kmだから5000km/年くらいか。本当ならかなり程度のいい車なんだろうな、と思われる)

  

 購入時の保証は納車後1年。

 「完全に整備して渡す(どの程度かは不明)」ことと納車までにオイルとエレメントを交換することを約して購入したそうだ。

 ところが販売店がオイルエレメントの交換を忘れていたらしく(オイルは交換済み)、「オイルエレメントを交換し忘れていたことが原因でエンジンオイルの圧がエレメントのOリングに余分にかかり、Oリングがズレてオイルが漏れ、エンジンが焼き付いた。これだけ原因がはっきりしているのだから販売店は無償修理しなければならないのにその補償に応じようとしない」、という言い分。

 

 

    なんとなく理路整然としているように読めるが、整備のことが少し解れば穴ぼこまみれだというのはすぐわかる(笑)

 

 まずは、中古車購入後3年超なので走行距離はさておき、クレーム対応期間はとっくに過ぎている。

 

 オイルが詰まり余分な圧がかかってOリングがズレた?

    オイルエレメントにはリリーフバルブがあるので構造上、エレメントを通らず、エンジンを潤滑するようになっている。だからOリングは関係ない、と説明したが「購入した事業者と同じことをいうな」と一喝された(笑)

   

    リリーフバルブが詰まって、という話ならまだわからないでもないが、といっても聞く耳持たず(笑)

 

 で、「仮にOリングがズレたとしましょうか。でもオイルが漏れたら圧がかからなくなるので油圧警告ランプが点灯するはずですが?」というと、「その表示はなかった」と・・・。

 

 とにかく、「オイル洩れの原因はOリングのズレで、エンジン焼き付きの原因は、オイルエレメントを交換しなかったからだ」と言って譲らない。

 

    これを言い切るのはある意味すごい。

    きっと誰かの入れ知恵なんだろうな。

 

    ともあれ、こちらはキチンと説明しているのに聞こうとしないから、話が前に進まない。仕方がないので「販売店にも話を聞いてみる」といって一旦電話を切った。

 

 

 販売店が3年前にオイルエレメントを交換し忘れたのは事実。

    今回のクレームを受け、エンジン焼き付きの原因を確認したところ、Oリングがズレてオイルが漏れていた。これも事実。

 

    ただ、オイルエレメントは他社銘柄のものがついており、(なるほどそういうことか)「当社(メーカー系販売店)が他社銘柄のオイルエレメントを使用することは絶対にない」と。

   それもそうだ。

  

    それにオイルエレメントを一度も交換していないのにその取り付け部にあるOリングがズレるのは構造上も考えにくい。

 

    どこかの素人か自分でオイルエレメントを交換したんだろう。その際に、前のエレメントのOリングが残ったまま次のエレメントをつけてしまい、Oリングが“ズレた”ように見えたということか。

 

 オイルがなくなったのにランプも点灯しなかったと言っていた件については、販売店が確認した限りオイルスイッチの機能は正常だから、ランプが点いているのに訳がわからず、壊れる(焼き付き)までそのまま乗り続けた、ということだろう。 

 想像だが、大体合っていると思う。

 

 ユーザーに連絡して『保守管理に問題はなかったのか?』と問うと、「私のこと(保守管理)は関係ない。販売時に完全に整備を行っていなかった販売店に全責任がある。とにかく、客の私がおかしいと言ったらおかしいのだ!」と。

 

    こちらが聞く疑問点には、知らぬ、存ぜぬ、関係ない!で、『自分は絶対正しい』というところは一歩も譲らない。

 

 何が何でもクレーム処理で無料にさせようという魂胆だが、こんな横車の押し方もあるのかと逆に感心した(笑)

 

 とにかく、まともな話しが出来ないので、「お客様の要望は理解できました。販売店は小さな会社ではないので専門家(顧問)に委ねるようです。そちらから連絡があるまでお待ちください」と言ったところ、「ユーザーの言い分に耳を貸さず、販売店の味方をする気か!」と電話口で騒いでいたが、「事業者が専門家に委ねたらこちらはその道では素人。貴方も専門家に委ねたほうがいい。その前にせめて私の疑問くらいは払拭して相談した方がいい」というと、今度は事業者ではなく、電話相手の私を「訴える」といい始めた。

    もうめんどくさくなったので「いつでもどうぞ」といって話を終えた(笑)

    実はこの「いつでも訴えて」という終わりかたは良くある(笑)

 

    販売店に後日電話をして聞いたが、後日談はない。

 もちろん、訴えられたという話も聞こえてこなかったし、当方も訴えられていない。