整備士が知らない…かもしれない整備工場の苦情相談担当者の『ひ・と・り・ご・と』

整備士が整備工場で勉強しようと思っても出来ない整備に関わるユーザーからの苦情、整備工場からの相談を綴ります。法律的なところは専門家ではないので鵜呑みにせず参考程度に。古い話で記憶もあやふやですが自分の笑える失敗話や整備の話もほんの少し。依頼があれば事例内容を紹介する講習会もやります。実例を知ってトラブルを防止しましょう。

日本茶 ⑪ 死角

 

  まずはユーザーの話から。

    コンビニの駐車場で隣のクルマがドアを開けた際、私のクルマに当たって『えくぼ』傷が出来た。

    相手が過失100%を認め、相手の知り合いの工場で修理してもらうことになった。

 

    見積り金額を聞いた相手は、保険の次年の等級、保険料率の上昇等を比較検討し、今回は保険を使わず現金で私の車を修理することになった。

 

    修理はほどなく終了したが、仕上がりが思わしくない。

 もう一度塗りなおしてもらったがやはり、思うような仕上がりにならない。

 それが3度に及び、相手から「いい加減にしてくれ」と言われ、少々揉めた。

 

 しかしこちらは被害者なのできちんとしてもらいたい。

 その思いがあり、相手からは「もう保険を使う。今度はあなた(私)の好きな工場で好きなように修理してもらってくれたらいい」といわれた。 ← これが根本

   

    相手が保険会社に連絡し、保険会社はこの件を了承(警察には届けていた)したので私がいつも修理をお願いしている事業者(相談してきた事業者)で修理をしてもらうことになった。

 

 

   次に修理を依頼された事業者から。

 

 ユーザーから修理依頼があり保険会社に確認すると「承知している」という返事をもらったので作業にかかった。

 

    ユーザーは当社のことを「いつも修理している事業場」と、相手にも保険会社にも言っているが、実際はほとんど入庫歴はない。

 

 修理はドア一枚塗るだけなので3日で完成。

 ユーザーに連絡すると仕上がりに満足し、乗って帰った。

 ところが15分ほどしてユーザーが戻って来て「コンビニに寄って、出てきたらドアに傷がついていることに気づいた」と。

   

    ん?また、当てられたのか?と思って近づくと「これだ」と言って教えられたのは助手席ドア。

 

『❓️』

 

    もとより助手席側はなにもしていない(納車前に洗車はした)。

 当社が行った作業は運転席側なので全く関係ない、はず。

    修理した反対側ドアの傷の苦情?    なんで?

   

 しかも、いわれてよく見てわかったのは、傷ではなく微妙な色の変化(傷ではない)。

 反対側の触りもしていないドアの『こんなものがわかるか!』

   と言いたいものの、ぐっと我慢(笑)して、車をぐる~っと見てまわってところ、助手席ドア以外に左右リアドアにも同じような色変化を見つけた。

 

 どれも5mmほどで、各ドア3箇所づつあり、当社が修理したドアにはない。

 

    そうすると、当社の前に作業をした工場で何かしたか、新車の製造過程でのものではないかと思えてきた。いずれにしろ当社がつけたものではない。

 

    どんな説明をすればいいか思案していると「今までそんな傷はなかった。今回の作業で傷をつけたことを認め、全て修理しろ。保険がおりなければ自社負担だ」と。

 

     なに?修理した反対側のドア(他の3ドア全てだが)に傷があるから塗りかえろ?

 意味わからん。

 

   仕方がないので相手保険会社にユーザーがこんなことをいっていると連絡したところ、当然のように「関係ないものに修理代金は支払わない」だった。

 

    当社としても要求が過剰の域を超えていると思うし、作業を行ったドアも『中等の品質』以上の仕上がりだと自負しているので、その他のドアに関してはいっさい関係ないと言ったものの、ユーザーは、事故相手が言った、「保険であなた(私)の好きな工場で好きなように修理してもらってくれたらいい」という話を持ち出してきた。

 

 完全に意味をはき違えている。どうしたものか、と悩んだ事業者がここで相談をしてきた。

 

  保険会社も御社もこのユーザーの相手になる必要はないと思う。

 腹を括り、「保険会社はコンビニで隣の車が凹ましたエクボ傷以外の修理は負担しないと言っている(当たり前)。当社も自社で作業した箇所以外の修理は行わない。どうしても直せと言うなら当社が傷をつけたことを証明してほしい」でいいのではないかと。

 

 実際、同じ言い方ではないにしろ、似たような言い方をしたら、捨て台詞を吐いて帰った、という。

 

 一応相手の保険会社に顛末を報告し、なにかあれば相手保険会社と相談して対応したほうがいいと伝えてこの件は終わりにした。

 その後、このユーザーが来ることはなくなったそうだ。

 

 それにしても修理した反対側のドアの不具合(でもない)を絡めてくるとは。

 真反対だけに思いもよらないクレームは死角だ。