整備士が知らない…かもしれない整備工場の苦情相談担当者の『ひ・と・り・ご・と』

整備士が整備工場で勉強しようと思っても出来ない整備に関わるユーザーからの苦情、整備工場からの相談を綴ります。法律的なところは専門家ではないので鵜呑みにせず参考程度に。古い話で記憶もあやふやですが自分の笑える失敗話や整備の話もほんの少し。依頼があれば事例内容を紹介する講習会もやります。実例を知ってトラブルを防止しましょう。

災い転じて福となす傷

 

    相手過失100%の追突被害事故に見舞われたユーザーから修理依頼を受けた。

   

    ユーザーは一見だが、ここ数年で3台の新車を納めさせてもらっている懇意のユーザーからの紹介だ。

    修理代金の支払いは車両保険で、修理見積もりにもアジャスターからすぐ了解が出て作業は滞りなく完了した。

   

    納車は、娘さんが来店されるというのでお願いし、保険会社にその旨、連絡した。

 

    受け取りに来た娘さんが乗って帰ってすぐ、依頼者から「預けた時についていなかった傷がついている」との苦情を受けた。

   

    傷はフロントガラスだという。

    フロントガラス?

 

   

 預かった時に、フロントガラスに傷がついていなかったという証明はできない。

    しかし、後方の被害事故。作業工程を考えれば弊社がつけたとも考えられない。

 

    こういった苦情にどう対応すればいいかアドバイスがほしい、と事業者から相談をうけた。

 

    結論から言うと、おそらく最終的には御社の負担になるように思う、と答えた。

 

    非がないとして争うなら「弊社が傷をつけたという証拠を出してくれ。立証責任はそちらにある。裁判で争いましょう」となる。

 

 しかし、3台も新車をおろしているユーザーの紹介。

 その面目を潰すことになる。

 それが言えるか?という話。

 

    争うと勝ち負けは別にしても、得るものがない。

 それどころか、新車を3台もおろしてくれているユーザーをなくす可能性も含む。

   

    今まで同様の相談が何件もあったけど殆ど事業者が涙を呑んでいる。

 

    もちろん、とことん争うことは可能だし、争った事業者も少なくない。

 しかし、結果は、ほんの少しの費用を回収したものの客は確実になくしている。

 少なくとも争ったあとも今まで通りの付き合いをしている事業者を私は聞いたことがない。

 

      それより今回の負担は授業料と捉え、今後は面倒でも入庫時や納車時にはユーザーと一緒に車両の状態を確認し、次回に生かす方がいいのではないか、とアドバイスした。

 

    また、クレームの対応は必ず紹介者の耳に入る。

 その対応で紹介者の面目も立つし、新たな固定客にもなってくれるかも知れない。

 

    一見客の場合は、性格まで読めないので細かい人でなくてもこのようなトラブルになる。 あとは御社がどうするかだけ。よく考えてほしい。

 

    数ヶ月後、「引く気はなかったが作業の非は認めず、確認を怠ったことを非とし、ガラスを無償で交換した。その後の展開は全く聞いたとおりで、驚いた」と何かのついでに連絡があった。

   

    事業場が傷を入れていなかった(実際不明なので)としたら理不尽な話だが、既存客はそのままで新規顧客が増えたことはプラス・マイナスゼロのように見える。

 ちなみに納車の時に車を取りに来た娘さんが中古だが、軽自動車を購入してくれたそうだ。そう考えると、数年後にはプラスに反転するかもしれない。

 

    あの傷は、もしかして…と考えるのは野暮な話か。